社長メッセージ

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大塚グループは本年、第3次中期経営計画の最終年度を迎えました。
本計画では「独自のトータルヘルスケア企業」への躍進を掲げ、イノベーティブな挑戦とともに新しい価値を提供し続けてきました。
今後も、世界中の人々がより快適で健康的な暮らしを送るために、「大塚だからできること」「大塚にしかできないこと」にフォーカスし、ステークホルダーの皆さまとより一層の価値共創に取り組み、サステナブルな社会の実現に貢献していきます。

2022年の事業環境および振り返り

大塚グループは、疾病の診断から治療までを担う医療関連事業と、日々の健康維持・増進をサポートするNC関連事業の2事業を両輪にグローバルでヘルスケア事業を展開しています。2023年を最終年度とする第3次中期経営計画では、「独自のトータルヘルスケア企業」として世界へのさらなる躍進をテーマに掲げ、既存事業の拡大・強化とともに新たな価値創造に取り組んでいます。
2022年は新型コロナウイルス感染症流行の影響で自粛されていた社会活動が再開されたことに伴い、新たな事業環境に対応するマーケティング活動や営業活動等を積極的に進めるとともに、従業員が安心して働ける環境の確保と事業継続に取り組み、安定した製品の供給体制の構築に努めてきました。また、ヘルスケア業界を取り巻く事業環境は、高齢化、高額医薬品の発売、感染症対策などによる医療費の増加傾向が続き、日米欧諸国において治療に対する医療コストへの関心が高まっており、日々の予防を含む健康への意識が一段と高まりを見せています。
これらの事業環境の中、2022年12月期は、医療関連事業では、抗精神病薬「レキサルティ」などグローバル4製品と位置づけた製品群が大きく業績を牽引し、NC 関連事業においても機能性飲料が伸長したほか、女性の健康市場の育成が進捗しました。2023年12月期の計画は売上収益は中期経営計画目標を1,000億円超過して過去最高となる1兆8,000億円、当期利益計画も過去最高を更新する1,575億円とし、さらなる成長を目指していきます。

CEOとして2023年に取り組むべき責務

事業を通じて本質を追求する

グループ子会社の責任者としてのキャリアを含めると、私が大塚グループの経営に携わるようになってから28年になります。大塚での経験を通じて得た、ビジネスにおいて大切にしている考え方があります。それは、「普遍的な物事の本質を追求していくと、経営の視点は一定の要素に収束されるのではないか」というものです。
私が1977年に大塚製薬に入社後携わった「カロリーメイト」の開発、「ポカリスエット」のプロダクトマネジメント、米国のファーマバイト社ならびに米国医薬品事業の経営再建などに関わる中で、その成果の過程で学び得たものが、社長として意思決定する際の大きな基盤になっていると思っております。これらの捉え方は、後述する大塚創業者三代にわたる遺訓とも通じ合っているのではないでしょうか。例えば、アンメット・ニーズを満たす製品は、往々にして既存の枠組みに入らないため、開発や販促などに非常に長い時間を要します。しかし、それが本質を有したものであれば、たとえ短期的にはマイナスに見えても、投資を続けるという価値の根拠となり得るのです。
ビジネスにおける失敗や成功それ自体はケーススタディの塊であり、成功への仮説と道筋を立て、これを実行することが鍵であると考えています。企業理念や企業文化を重視し、折に触れて社員に話す機会を作っているのですが、それは、それらが先人たちの膨大なケーススタディから100年かけて実証されてきた大塚ならではの経営的視点の歴史であり、それゆえに普遍的なエッセンスであると考えているからです。現在の大塚グループの主要製品の一つであるV2-受容体拮抗剤「サムスカ/ジンアーク」は、日米欧共同臨床試験に挑戦し、試行錯誤を繰り返し四半世紀余の歳月を経て発売に至りました。これは特に、開発に時間のかかった製品であり、抗精神病薬「エビリファイ」の開発成功を、循環器・腎領域でも再現できるかという挑戦でもありました。ADPKD治療薬の適応においては、日欧では承認取得できたものの、米国の承認がなかなか下りず、追加試験を継続するかどうか社内でも意見が分かれていたことがありましたが、私は完遂させることを選択しました。また、大塚グループには、「カロリーメイト」という製品がありますが、発売当初、「カロリーメイト」がなかなか市場に受け入れられなかった時に、「この製品は絶対に人々の健康に役に立つ」という信念をもって、「栄養調整食品」という新領域を開拓した経験が大塚にはあります。「サムスカ/ジンアーク」が承認を受けるまで努力し続けられたのは、「カロリーメイト」と同様、「この薬は必ず世界の人々の健康に貢献する」という、企業としてのある種の「健康への執念」と、サイエンスに基づいた「本質の証明に対する確信」があったからだと言えるでしょう。
追加試験をやり遂げ、承認を受けた「サムスカ/ジンアーク」は、ブロックバスターへと成長し、現在はグローバル4製品の主軸として大塚グループの業績を牽引しています。

2023年に取り組む三つのテーマ

今後も大塚グループが持続的に成長していくにあたって、2023年に取り組むテーマであると考えているのは、次の三つです。
まず一つ目は、第3次中期経営計画の最終年として完結すること。二つ目は、第4次中期経営計画の準備をすること。三つ目は、次の100年に向けて「大塚の目指すべき姿」を達成するための長期経営資源、つまり人材の育成、そして新技術や新しいサイエンスへの投資を、断固として行うことです。
一つ目の第3次中期経営計画の完結に関しては、医療関連事業では引き続きグローバル4製品を中心に売上収益を拡大させるとともに、さらなるグローバル製品の育成に取り組みます。例えば、現在60カ国・地域に提供している抗精神病薬「レキサルティ」は、アルツハイマー型認知症に伴う錯乱や暴力などの行動障害(アジテーション)を解決する米国初の新適応症に向けて臨床試験を進め、2023年5月に承認となりました。アジテーションの軽減は、患者さん本人の負担軽減だけでなく、今まで暴力などに苦しんできた介護者や家族など周囲の人々の心身の健康という大きなニーズに応えることにもつながります。
また、医療機器においても、高血圧治療のアンメット・ニーズに挑戦する超音波腎デナベーションシステムの承認取得を目指しています。本システムは、血圧に関与する腎交感神経を焼灼し、その過活動を抑制することで血圧を下げる低侵襲機器であり、承認されれば、一見満たされていると考えられている治療のアンメット・ニーズであるアドヒアランスの問題解決に挑戦する世界初の医療機器となります。
NC関連事業においては、グローバル展開を加速させるとともに、新分野への挑戦や効率的な経営戦略により、コンシューマ・ヘルスケア市場でのプレゼンス確立に注力していきます。ヘルスケア市場においては、健康意識の高まりや、女性の活躍などのニーズを的確に捉えた戦略の推進により、「ネイチャーメイド」や「エクエル」といったサプリメントや健粧品の「インナーシグナル」なども堅調に推移しています。「ネイチャーメイド」は、コロナ禍をきっかけに大きく伸長した米国市場の需要に対応するべく、米国新工場の設立に着手しています。
これら二つの事業を大きな柱として、トータルヘルスケアのソリューションをイノベーションを通じて提供するというコンセプトを、より具体的な形として示すことが、第3次中期経営計画の着地点であると考えています。
2023年に実現すべきテーマの二つ目は、第4次中期経営計画への準備です。前回の計画の策定時から事業環境もグループの体制も大きく変化しています。また、さまざまなステークホルダーからのサステナブルな社会実現に関する課題解決への要請も高まっています。そうした中で、第4次中期経営計画期間に予測され得るリスクと機会を踏まえて、グループ全体としての企業価値の最大化を図るべく、準備を始めています。
三つ目のテーマは、「大塚の目指すべき姿」を達成するための長期経営資源である人材の育成、新技術や新しいサイエンスへの投資です。特に、人材は経営資源のコアであると考えています。現在の大塚グループは、子会社・関連会社を含むグループ会社196社、従業員約4万7,000人という、世界中で事業展開するコングロマリット(複合)企業です。ヘルスケア分野で長期的な価値創出を意図するならば、国内外の個々人の能力の向上とそのマンパワーによってもたらされるグループシナジーを最大化していくことが必須条件となるでしょう。
2022年、大塚製薬で、最先端のサイエンステクノロジーを取り入れた「大阪創薬研究センター」を設立しました。創薬のイノベーションの成功は、社内リソースのみならず、社外とのネットワークを自由自在に構築できるか否かにかかっています。また、グローバルなビジネスパーソンには「各国の文化の違い」による「違い」への理解が求められます。優れた研究者をはじめ世界で通用する人材を育成していくこと、ならびに人材育成の環境づくりに投資していくことで、大塚が目指すべき姿の実現に向けて取り組みを続けていきます。

三代にわたって築かれた大塚の経営の真髄

世界中に広がる大塚グループのネットワークを活かして事業を展開するにあたり、人材育成とともに注力しているのが「大塚らしさ」の継承です。樹木が枝葉を伸ばして大きく成長しようとしても、土台となる木の根がしっかりしていなければ、それを支えることはできません。大塚グループという樹木の土台は何か。それは、先人たちのケーススタディである経営の真髄、つまり歴代経営者が唱えた「流汗悟道」「実証」そして「創造性」という言葉に集約されています。
「流汗悟道」は、大塚グループを創業した大塚武三郎氏の言葉で「自分で努力して汗を流し、実践することで初めて物事の本質や真実がわかる」という真実への道しるべを示しています。地道にひたむきな努力を続ける過程で見出された本質が事業の基盤につながったのです。「実証」は、二代目の大塚正士氏が残した言葉で「仮説を立て挑戦し、実現する」という意味です。人々のニーズを深層まで掘り下げて仮説を立て、これを世の中に出し、満足していただけることを実現化、つまり実証してきました。「創造性」は、三代目の大塚明彦氏の言葉です。明彦氏は、世界に通用するためには、「他社がやらない困難なテーマに挑戦することで革新的な製品の開発につながる」という考えのもと、一貫して革新性、創造性を説き、それは「エビリファイ」などの画期的な新薬のほか、「ポカリスエット」「カロリーメイト」といった新カテゴリーの創造にも結びつきました。この三つの言葉は、「大塚らしさ」の根幹をなしており、事業活動全体に通底するゆるぎない木の根としてグループ社員の方向性を一つにまとめ、考え方の土台となっています。
現在は海外における売上比率が6割を超えて国際性・多様性を獲得する一方で、企業文化である「大塚らしさ」の浸透、継承がより重要になっています。事業が拡大、成長し、グループに名を連ねる会社が増えていく中であっても、これら大塚グループの根源としての企業文化への理解を進め、理念の徹底を図っていきます。

トータルヘルスケア企業としての価値を創出していくために

100周年Yearを終えて

大塚グループは、2021年9月に創業100周年を迎え、2022年8月までの1年間を「100周年Year」として、グループ社員が一丸となって、歴史を学び、未来を創っていく機会と位置づけ、さまざまな催しを行いました。なかでも、次の100年に向けて、大塚グループが生み出す新しい価値について考えるグループ横断の社員参加プログラムの実施は、大塚として何を大切にしていくかを再確認するとともに、経営陣と社員が相互に議論することにより、企業理念や文化への理解を深める重要な経験になりました。
2020年からの長期にわたる新型コロナウイルス感染症の影響をはじめ、世界を取り巻く状況は刻々と変化しています。また、地政学的リスクやそれに伴うサプライチェーンなどへの多面的なリスクの深刻化、コストの上昇、地球環境における課題の山積とともに、mRNAなどの新たな創薬モダリティ、人工知能(AI)、GPT、そして量子コンピューターへの開発投資など、科学技術の進化も目覚ましく、事業におけるリスクと機会は常に見直しが求められています。こうした極めて不確実性の高い時代において、普遍的な人々の願いは、物理的・心理的な安定性、特に心身の健康や幸福・満足といった欲求、すなわち従来のヘルスケアという概念を拡大した“Well-Being”という枠組みであり、「トータルヘルスケア」と深くつながっています。
先に述べたとおり、普遍的な物事には本質があります。人々の願いが普遍的なものであるならば、大塚グループが追求する「健康」という価値もまた普遍的なものです。だからこそ、事業環境が激変しても、何らかの形で世界の人々の健康にコミットできることが大塚グループの強みであり、事業ポートフォリオの多様性は、環境変化に対応する力の強さでもあります。
大塚グループのビジネスモデルの中には、治療薬、臨床栄養、診断、医療機器、OTC医薬品、NC、健粧品、消費者製品、化学品という9つの領域を示した図があります。各事業が互いに相互作用することで大塚グループの強みが発揮されていくことを、この図は端的に示しています。
大塚グループが扱う製品・サービスは、確かな科学的根拠をもとに作られています。例えば「ポカリスエット」は単なる飲み物ではなく、開発コンセプトは「汗の飲料」であり、細胞内液、細胞外液との関連で輸液事業の考え方から派生しています。このように、医療関連事業から見出した本質・法則をほかの事業に横展開・再現するために徹底的に検証を行い、「健康に役立つ」と確信して世に送り出しています。

世界中の「一人」の人生に寄り添い健康をケアし続けるトータルヘルスケア

大塚グループの製品は、気が付くとさまざまな形で人々の健康をサポートしています。例えば、大塚グループの掲げるトータルヘルスケアというビジネスモデルの本質は、ライフスタイルの視点から見ると実は大変シンプルなものです。日常においては「ポカリスエット」で水分補給をする。体調を崩したら点滴や薬によって治療を受ける。足りない栄養素をサプリメントで補う。事業としては多岐にわたっていますが、結局は「一人」が対象です。一人の人生に寄り添って、あらゆるシーンで生涯にわたって「健康」をケアすること。これが治療から予防・健康維持という広い事業領域を持つ「トータルヘルスケア企業」の存在意義であり、世界中の「一人の健康」を身体的・精神的・社会的な面から徹底的に守ることが大塚の目指す姿なのです。
今後100年のテーマは、新しい価値を創出し続けること、そのための「トータルヘルスケア企業」としての体制を強化していくことです。この実現のため、ポートフォリオの充実と、革新性をもった製品・サービスの開発体制を強化する所存です。大塚グループは、多様な会社と多様な社員たちが連携しながら、それぞれの能力を掛け合わせて仕事をしていくことで、あらゆる人の人生に寄り添うトータルヘルスケアの提供者であり続けます。そして、大塚の礎である“Otsuka-people creating newproducts for better health worldwide”(世界の人々の健康に貢献する革新的な製品を創造する)という企業理念を体現し、常に新しい価値を生み出し続けることによって、次の100年も「なくてはならない企業」としてステークホルダーの皆さまとともに企業価値を創出していきます。
今後とも、より一層のご支援・ご鞭撻を賜りますよう、お願い申し上げます。

2023年7月12日
代表取締役社長 兼 CEO

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