CFOメッセージ

事業のオーガニックな成長により創出したキャッシュを企業価値と社会価値へ循環させる─持続的価値創造を支える大塚グループの財務戦略─ 大塚ホールディングス株式会社 取締役CFO 牧野 祐子事業のオーガニックな成長により創出したキャッシュを企業価値と社会価値へ循環させる─持続的価値創造を支える大塚グループの財務戦略─ 大塚ホールディングス株式会社 取締役CFO 牧野 祐子

1.業績、企業価値創出(TSR)の概況

(1)連結業績概要

2025年度の連結業績は、売上収益が前期比6.0%増加の2兆4,689億円となりました。医療関連事業は、ジンアークの後発医薬品の影響がありましたが、主に「レキサルティ」「エビリファイ メンテナ」およびロイヤリティ収入が増加しました。また、NC関連事業、消費者関連事業など全セグメントで増収となりました。
事業利益は前期比3.6%増加の4,461億円となりました。医療関連事業の「VOYXACT」などの新製品上市に係る費用、NC関連事業の女性の健康カテゴリーを中心とした成長投資、第5次中期経営計画以降の業績を牽引する「repinatrabit」「ウロタロント」「ジパレルチニブ」といった成長ドライバーの研究開発費の増加を上回る増益となりました。営業利益は、マイクロポート社株式売却に関連する利益に加え、前期の減損損失の反動による影響もあり前期比48.2%増加の4,794億円となりました。親会社の所有者に帰属する当期利益は、前期比5.8%増加の3,632億円となりました。
2010年12月に東京証券取引所に上場して以来、過去最高の売上収益、事業利益、営業利益、当期利益を計上し、各利益率も過去最高水準となりました。

(2)株主総利回り(TSR)の推移

上場以来のTSR推移を振り返ると企業価値は確実に向上し、15年間で約600%(2026年3月末時点)となりました。また直近2年間は、TOPIXの医薬品(TOPIX-17)のTSRを上回る水準となっています。
上場時には、株式市場から「エビリファイ」の米国でのLOE(独占販売期間満了)を懸念する指摘がありましたが、「エビリファイ」で獲得したキャッシュをベースに、第1、2次中期経営計画にかけて、医療関連事業のグローバル3製品(「エビリファイ メンテナ」「レキサルティ」「サムスカ/ジンアーク」)、次世代製品の「ロンサーフ」などの成長ドライバーの育成、NC関連事業の高マージン戦略を実施し、収益の多様化を進めました。
さらに、第3次中期経営計画期間を「エビリファイ メンテナ」「ジンアーク」のLOEに対応する準備期間と定め、グローバル3製品で獲得したキャッシュをベースに次世代の成長ドライバーの育成に取り組んできました。
その結果、第3次中期経営計画最終年度には、米国で「レキサルティ」のアルツハイマー型認知症に伴うアジテーション(AAD)の効能追加承認、2025年度には米国で「VOYXACT」の迅速承認を取得し、第4次中期経営計画以降の収益の柱として成長してきました。
大塚グループでは、事業で創出されたキャッシュを積極的に成長投資へアロケートしてきたことで、投資と成長のサイクルを拡大させ、企業価値向上に努めてきました。これまでの事業拡大や収益改善策、株主還元施策が一定程度、株式市場から評価されてきたことの表れと考えています。(「図1」参照)

図1 株主総利回り(TSR)の推移

図1 株主総利回り(TSR)の推移
  • *TSRの計算は、累積配当額と株価変動により算出
  • *グラフの値は、上場当時の公開価格を基準とした推移

2.企業価値向上に向けた取り組み

(1)企業価値向上のフレームワーク

大塚グループの新たな価値創造を支える財務方針・戦略の枠組みとして、大塚の企業文化である「大塚だからできること」「大塚にしかできないこと」を実践し続けるための安定した財務基盤を構築することが、イノベーション創出による社会貢献につながると考えています。
成長サイクルを支える成長投資資金の源泉として、ROICマネジメントを通じて資本コストを超えるキャッシュを安定的・継続的に創出することが重要となります。利益成長によって創出されたキャッシュを、中長期を見据えた事業への成長投資および株主還元へと配分し、社会課題解決を通じた持続的な価値創造によってマルチプルの向上を図ります。こうした価値創造の循環を拡大させることで、企業価値の継続的な向上を目指します。(「図2」参照)
大塚グループの成長投資の方針として、イノベーションにより社会に貢献することを重視しており、企業価値向上と社会貢献を実現するための投資案件であれば、継続して挑戦していきます。また、投資計画は、中期経営計画に沿ったキャッシュ・アロケーションのもと、長期戦略に合致し、既存の経営資産とのシナジーを生み出せる領域への投資を行っています。医療関連事業では、重点領域である精神・神経、がん、自己免疫、希少疾患領域におけるパイプラインを継続的に生み出すような創薬技術の獲得やアライアンス、また、製品・パイプライン強化を目的とした開発に投資しています。NC関連事業では、新エリアへの販路拡大投資に加え、新製品価値の訴求によるブランド構築と生産・販売体制の強化に投資しています。
成長投資機会に応じ、外部からの資金調達が必要な場合は、コマーシャル・ペーパー、社債、銀行借入など複数の調達手段により、事業の成長機会を逃さないよう臨機応変に対応できる体制になっています。

図2 企業価値向上のフレームワーク

図2 企業価値向上のフレームワーク

(2)大塚における企業価値向上サイクルの振り返り

大塚グループの過去の中期経営計画を振り返ってみると、研究開発費投資前営業キャッシュ・フローは、第2次中期経営計画の5カ年では1兆6,000億円、第3次中期経営計画では2兆3,000億円、第4次中期経営計画では3兆円を計画しています。このようにキャッシュ創出力が着実に増加することで、成長投資も第2次中期経営計画で1兆8,000億円、第3次中期経営計画で1兆8,500億円と増加し、第4次中期経営計画ではさらに2兆2,000億円となる計画で企業価値向上サイクルが循環、拡大しています。第4次中期経営計画においても長期的な視点で第5次中期経営計画以降の成長を見据え、将来のキャッシュ・リターンが期待される資産の獲得、研究開発に投資することで、好循環を生み出していきます。(「図3」参照)
各事業セグメントの事業価値向上サイクルを振り返ると、医療関連事業では、グローバル4製品への成長投資約5,700億円が、第3次中期経営計画以降に累積で5兆2,000億円となる売上収益を生み出しています。第3次中期経営計画のネクスト8、プラス2への投資によって、第4次および第5次中期経営計画以降の収益を生み出すことを目指します。(「図4-1」参照)
NC関連事業では、第4次中期経営計画で設定した3つの社会課題(「For Climate & Environmental Risk」「For Women’s Health」「For Healthier Life」)の解決に貢献する事業への投資に加え、既存製品の海外の未開拓エリアへの進出に伴う成長投資を中心に実施することで、売上収益に占める海外売上比率を上場当初の約40%から約70%まで高め、事業を拡大してきました。(「図4-2」参照)

図3 企業価値向上サイクル

図3 企業価値向上サイクル

図4-1 事業セグメント別の成長投資サイクル:医療セグメント(2010年~2025年)

図4-1 事業セグメント別の成長投資サイクル:医療セグメント(2010年~2025年)

図4-2 事業セグメント別の成長投資サイクル:NCセグメント(2010年~2025年)

図4-2 事業セグメント別の成長投資サイクル:NCセグメント(2010年~2025年)

(3)第4次中期経営計画の財務方針と進捗状況

①キャッシュ・アロケーション

第4次中期経営計画では、第3次中期経営計画を大きく上回る約3兆2,000億円のキャッシュの創出を計画しています。研究開発費約1兆5,000億円は、主に医療関連事業での創薬基盤技術となる基礎研究、後期の臨床開発を進めるために、精神・神経、がん、自己免疫、希少疾患領域を中心に投資する予定です。約5,000億円の設備投資のうち、約半分は海外の高成長エリアで展開する「ポカリスエット」の需要に応えるための生産力増加への投資、残りの半分は、環境に配慮した既存設備の維持更新への投資を予定しています。また株主還元については、安定的・継続的な配当および自己株式の取得で3,800億円を計画しています。
2025年度までの2年間の進捗状況として、成長投資の原資となる研究開発費投資前営業キャッシュ・フローは、中期経営計画に対して50%となる1兆5,923億円となりました。これは2カ年の目安である進捗率40%に対し1,900億円を上回るキャッシュを創出したことになります。
一方で、資金使途としての成長投資は、進捗率41%となり中期経営計画どおりに進捗しています。研究開発費は、「VOYXACT」「センタナファジン」「ウロタロント」の臨床開発が順調に進み計画どおり42%の進捗となりました。設備投資は、輸液事業の米国進出、NC関連事業の未開拓エリアへの設備投資を行った結果、進捗率37%となり、ほぼ計画どおりに推移しました。また外部資産取得も、第3次中期経営計画5カ年の獲得額を上回る2,905億円となりました。
株主還元については、好調な事業を背景としたキャッシュの上振れによって追加の株主還元を実施した結果、68%と第4次中期経営計画を大きく上回る水準で進捗しました。今後も創出するキャッシュを成長投資と株主還元にバランスよく配分し、企業価値の持続的な向上に取り組んでいきます。(「図5」参照)

図5 第4次中期経営計画 キャッシュ創出と成長投資の進捗状況

図5 第4次中期経営計画 キャッシュ創出と成長投資の進捗状況

②ROICマネジメント

大塚のイノベーションを支えるROICマネジメントは、短期的な資本効率の改善だけではなく、大塚の社会価値創造を実現するための研究開発、外部資産の獲得、人財育成などへの成長投資を継続しつつ、安定して資本コストを超えるキャッシュ・リターンの創出ができていることを常にモニタリングする仕組みです。(「図6-1」参照)
キャッシュ・リターン創出の効率性を示す経営管理指標であるROICは、2025年度は11.9%になりました。第3次中期経営計画5カ年平均である5.8%、第4次中期経営計画で設定したWACCを大幅に超える水準に達し、順調に進捗しています。今後も成長投資の成果を着実に収益とキャッシュ創出へ結び付けることが重要と考えています。(「図6-2」参照)
キャッシュ・リターンに関しては、医療関連事業の主要KPIとなる「グローバル10プラス2」の売上収益が2023年度比で約2,000億円増加の5,721億円に達し、順調に拡大しています。既存医薬品の効率的な経費使用が進むことで研究開発費投資前事業利益率が2023年度比で0.4%上昇して42.2%に達し、リターンの最大化に貢献しています。NC関連事業の主要KPIである海外売上収益比率は、2023年度比で約5%上昇して70.6%に達し、海外事業が順調に推移しています。また、直近数年間の原材料費高騰による影響があったものの、企業努力によるコスト削減および一部製品の値上げによって吸収した結果、原価率は2023年度比で0.4%減少の47.8%となり、利益率向上に寄与しています。EBITDAマージンは、成長投資としての経費が増加した結果、2023年度と同様の15.8%となりました。引き続き、ハイマージン製品のブランド価値浸透を進め、マージン改善を目指します。
投下資本に関しては、第3次中期経営計画を上回る外部資産の取得により将来のキャッシュ・リターンが期待できる資産が増加していますが、既存プロジェクトの見直しなどにより、医療関連事業、NC関連事業ともに事業資産回転数を維持しています。キャッシュ・コンバージョン・サイクルは、第3次中期経営計画よりも回転期間が長くなりましたが、製品の安定供給を第一優先とし、地政学的リスクや米国関税政策への影響を最小化するために在庫を積み増したことによる影響です。今後も、安定供給と運転資本効率のバランスを考慮し、最適化を図ります。
事業以外の取り組みとして、政策保有株式を2023年度から31銘柄削減してきました。財務効率化の観点からは、資金調達が必要な場合も考慮し、調達の多様化を進めつつ、外部からの有利子負債の削減によりコストと投下資本を削減してきました。

図6-1 第4次中期経営計画で実践する大塚グループのROICマネジメント(引用 第4次中期経営計画発表資料)

図6-1 第4次中期経営計画で実践する大塚グループのROICマネジメント
  • *NOPAT(Net Operating Profit After Tax):税引後営業利益

図6-2 2025年度のROICマネジメントにおける主要KPIの進捗状況

図6-2 2025年度のROICマネジメントにおける主要KPIの進捗状況

③株主還元

株主還元の方針は中期経営計画の期間で掲げたキャッシュ・アロケーションに基づく年間配当、自己株式の取得を確実に実行することです。また、現中期経営計画期間においては事業が順調に推移しており、事業の成長により創出されたキャッシュの状況と次期中期経営計画期間の事業の見通しを考慮し、追加の株主還元を実施することです。
2024年度は、第3次中期経営計画の成果として、自己株式の取得を約500億円実施しました。2025年3月には、米国でレキサルティのアルツハイマー型認知症に伴うアジテーションの治療における効能追加の承認による将来の収益見通し、2024年度の事業から得られたキャッシュと成長投資の順調な進捗に基づき、約700億円の自己株式を取得するとともに、年間配当額を120円から20円増配し140円としました。
2025年度の好調な業績に加え、米国でAPRIL阻害「VOYXACT」が成人のIgA腎症の治療薬として、迅速承認を取得したことにより将来の収益が期待できる状況になったことから、2026年度中に自己株式の取得を500億円実施することを発表しました。今後も足元の事業から得られたキャッシュの上振れ、成長投資の進捗状況、将来の収益見通し、株主総還元性向など、多角的な観点から積極的に株主還元を検討します。(「図7」参照)

図7 第3次および第4次中期経営計画期間の株主還元ならびに当期利益の推移

図7 第3次および第4次中期経営計画期間の株主還元ならびに当期利益の推移
TOP