社外取締役座談会

世界で認知されるトータルヘルスケア企業へ

最高業績を糧に、人々の人生に深く寄り添うトータルヘルスケアの進化

大塚ホールディングスは、2025年度において、売上収益、全利益項目ともに過去最高を更新しました。CEOである井上眞のもと、2026年度は主要製品のLOE(独占販売期間満了)に伴う調整局面を迎えつつも、2035年には売上収益3.5兆円を目指す長期目標を掲げ、次世代成長ドライバーへの積極的な投資を継続しています。本座談会では、異なる専門性を持つ5名の社外取締役が、大塚グループの独自性や新体制下でのガバナンス、今後のグループの在り方をテーマに意見を交わしました。

社外取締役5名(瀬口二郎氏、松谷有希雄氏、青木芳久氏、三田万世氏、北地達明氏)の集合写真と各氏の略歴・専門分野。

大塚グループの独自性と現状への評価

―社外取締役としての役割を踏まえ、現状の大塚グループに対する評価をお聞かせください。

松谷 当社の社外取締役の中で最も長く在任していますので私からお話ししますと、自身の役割は、医療行政を専門とする立場から「企業が個人や集団の健康に対して、何をすべきか、何をしてはいけないか」を提言することだと認識しています。その中で重視しているのは、「医療とニュートラシューティカルズ(NC)の調和」です。薬は本来「毒をもって毒を制す」面がありますが、NCや食品は「おいしさ」という嗜好性が不可欠です。この異なる2つの分野で事業を展開して、調和させようとしているのは大塚の独自性であり、世界でもあまり例がないビジネスモデルです。一方で、具体的なシナジーはまだ限られており、さらなる進化の余地があると感じています。

北地 私は公認会計士として、主にファイナンスとマーケット開拓の知見を提供しています。前職ではマザーズ市場の創設やM&Aの法整備に関わり、大塚の上場にも関与したのですが、当時、「大塚は大胆なことをやるビッグベンチャーだ」という印象を持ったことをよく覚えています。その印象は今も変わりませんが、取締役会では、お客さまや社会、そして従業員への利益配分が適正に行われているか否かを注視しています。PBR(株価純資産倍率)の向上といったアウトカムだけでなく、中長期的な資本コストを意識した経営、すなわち将来のキャッシュ・フローを最大化する「インカムアプローチ」へのチャレンジを求めています。

社外取締役 三田 万世

三田 20数年間、証券アナリストとしてヘルスケア業界を見てきました。私も大塚の上場に携わったのですが、思い出深い仕事の一つとなっています。当社は「エビリファイ*」の特許切れへの懸念やグループの強みが浸透しないことなどから株価が低迷していました。株価は最近ようやく1万円を超えるようになりましたが、私の役割は、投資家やアナリストとの積極的な対話を促して、グループの強みを正当に評価してもらうことだと考えています。強みをさらに伸ばすためには、成長事業への資源の集中、何よりスピード感が必要だと感じています。

瀬口 私は25年以上にわたって外資系金融機関で投資銀行業務に従事してきました。その経験を活かして、M&Aが企業価値の向上につながるのか、株主目線で適切なアドバイスをすることに加え、グローバルガバナンスにも貢献することが役割です。また、マルチプル(株価倍率)が異なる医療とNCが共存する意義を、投資家が納得するよう提示する必要があると考えています。

青木 総合商社でグループ会社の管理や食糧部門の経営を担ってきた立場からしても、大塚は「多業種経営」であり、ビジネスモデルは商社に近いと感じています。私は商社ビジネスの中で「多様な業種を仕組みで動かすノウハウ」を培ってきましたので、これを今度は大塚に注入することがミッションの一つだと認識しています。各事業をプロが経営して、持株会社がそれを客観的に管理する。こうした仕組みを確立することが大塚グループの最大の課題だと捉えています。

* 統合失調症等の適応症を有する抗精神病薬。米国にて2015年4月に独占販売期間満了

新CEO体制と取締役会の変化

―井上新体制の発足から約1年が経ちました。新体制や取締役会の実効性をどのように見ていますか。

松谷 井上CEOは「現場を知る」強みと決断力、また何より人格を備えています。今回の交代は、創業時からの伝統を「変えてはいけない理念」として守りながら、変えるべきところは変える「不易流行」の精神を体現した移行だったと評価しています。

北地 井上CEOは、全体を把握したうえで、私たち社外取締役はもとより周囲の意見を広く聞く姿勢を徹底しています。

三田 その姿勢は、社内の取締役の方々にも良い影響を与えていると思います。

社外取締役 北地 達明

北地 それは同感です。業務執行を兼務する取締役が自身の担当事業だけでなく、グループ全体の課題について活発に発言しています。このことは「ガバナンスの質」を高めるうえでも意義のあることだと感じています。

青木 実効性の面で私が特に指摘したいのは、経営企画部門などに所属する、次世代のリーダーとなることが期待されているメンバーが取締役会にオブザーバーとして参加し始めたことです。最高意思決定機関へ出席することは、最高の人財教育の機会になります。また、井上CEOは「10年先を見据えて何が必要か」という宿題を各所に課しており、短期的な業績に安住しない「未来予測型」の経営が定着しつつあります。

三田 社外取締役への事前説明も以前にも増して充実していますので、建設的な質問を投げかけやすくなりました。実効性評価のアンケートでは改善余地を厳しく指摘することもありますが、着実に良い変化が起こっています。

社外取締役 瀬口 二郎

瀬口 投資銀行業務に関わってきた視点からは、井上CEOが「サイエンスに対するリターンの追求」を徹底して、そこに強いリーダーシップを発揮している点を評価しています。パテントクリフを乗り越えるだけでなく、企業文化をベースに自ら新しいサイエンスの芽を作り出す仕組みをグローバルに構築しようとする姿勢は高く評価できます。

中長期的な事業成長に向けて

―今後も成長を持続させるために、どのような視点や取り組みが必要でしょうか。それぞれの意見をお聞かせください。

社外取締役 松谷 有希雄

松谷 これまで大塚グループは、医療関連事業における強力な製品ラインアップと、それを支える研究段階からの目利き、買収戦略によって成長してきました。今後も成長軌道を維持し続けるためには、買収によって得た多様な創薬プラットフォームを連携させ、いかに相乗効果を創出できるかが鍵になります。また、NC関連事業を「サイエンスのエビデンスを持った柱」として医薬関連事業と調和させることが、大塚にしかできない価値創造につながると考えています。

青木 私は経営の安定化という観点から、NCの収益力強化を重視しています。医薬品は「当たれば大きい」ものの、継続的に新薬を開発することは難しく、その意味で不確実な要素があります。一方でNCは着実に利益を積み上げられる事業です。

松谷 まさに先に述べた医療とNCの調和が求められるわけです。

青木 仰るとおりです。食品で健康を維持し、足りない部分をNC製品で補い、病気になってしまった場合は薬で治す――この「トータルヘルスケア」の価値連鎖をより強固にすべきです。

瀬口 松谷さんが仰っていた「不易流行」の視点、すなわち守るべき本質を持ちながら変えるべきものは変えていく姿勢こそが、市場との対話を支える土台になっているのだと思います。資本市場は、将来のキャッシュ・フローを生み出すパイプライン「ネクスト8」などを正当に評価し始めており、たとえ特許切れの影響などによる厳しい収益見通しがあっても、株価が安定しているのは、そうした経営の一貫性が資本市場に理解され始めている証拠とも言えます。一方でたとえ歴史があっても「見直すべきタイミング」が来るかもしれない、という緊張感を持つべきです。そのためにも、医療関連事業だけでなくNC関連事業におけるKPI達成が不可欠です。

三田 市場から見て、NCのグローバル展開、特にアジア以外の「ポカリスエット」や米国以外でのサプリメントの展開にはまだ大きな成長余地があると感じます。また、超音波式腎デナベーションシステムのような新規領域において、生産・販売体制を早期に構築することも重要です。競合他社と比較して「変化率とスピード」を常にモニターしていく必要があります。

北地 大塚の強みは、特定の領域での存在感がはっきりしているということです。その反面、医療関連事業が強すぎるがゆえに、他の収益性の低い事業の底が見えにくくなるリスクもあります。資本コストを意識した経営を浸透させる中で、どの事業をどこまで見守るべきか。拙速な判断は避けるべきですが、モニタリングを強化しなければなりません。

非財務資本の強化

―人的資本をはじめ非財務資本の重要性が高まっています。今後の取り組みに対する考えをお聞かせください。

青木 私が第一に指摘したいのは「経営者の育成」です。井上CEOは「30年先を見据えた人財育成」を志向していますが、多業種を経営するためには、各業界のプロを育て、かつ持株会社が育成プロセスを仕組みで管理できる体制を整備しなくてはなりません。

三田 その点について言えば、グローバル人財の育成も急務です。若いうちに海外で経験を積んで、帰国後も事業部を超えて横のつながりを持てる対話力や調整力が求められます。重要なのは立場や組織の違いを超えて率直に対話できる文化であり、グローバルに連携できる環境を作らなければなりません。

松谷 人的資本経営とは「面白いと思って集まってくる人を増やす」ことだと私は思っています。1次元の物差しではなく、多様な経験を積んだ「3次元、4次元の物差しを持つ人財」がいなければ、次のイノベーションは生まれないでしょう。例えば、欧米の文化を深く理解することは大切ですが、それだけでは頭打ちになります。日本の良さを活かし、まだ私たちが知らない可能性を許容できる「自由に言える文化」が、大塚の最大の資産ではないでしょうか。

青木 短期的な成果を求めるのではなく、10年先、20年先を見据えて人財に投資していく。その積み重ねが、結果的にグループの持続的な成長を支える基盤になるのでしょうね。

瀬口 人の育成とともに、私はキャピタル・アロケーションへの信認を維持することが重要だと考えています。自社グループの専門性・注力分野を明確にして、そこに資金を集中投下することです。また、ブランド戦略では、製薬会社の製品であることがNC製品の信頼を高め、NC製品の親しみやすさが製薬会社としてのブランドを支えているという「双方向の相乗効果」をもっと意識すべきです。医療とNCのシナジーについて言えば、大塚製薬は輸液の発想から「ポカリスエット」を生み出しました。ポカリスエットの機能性の訴求によって水分・電解質補給の重要性の理解が進み、また大塚製薬工場では「オーエスワン」などの製品もオリジナリティを持って展開している。このような「ブランドの好循環」をグローバルでもさらに強化していくことで、大塚の真の価値を高められると考えています。

北地 大塚はサステナビリティ活動についても、自分たちが貢献できる分野を戦略的にアピールすべきです。また、大塚は多くのビジネスパートナーとの取り組みを通じて安全な水源を有しており、欧州での水源保護にも貢献しています。今後は、途上国においてもこうした水源保護の取り組みを拡大していくことが必要でしょう。

大塚グループの今後に期待すること

―最後に、大塚グループがステークホルダーにとって「なくてはならない企業」であり続けるために、今後期待することをお聞かせください。

社外取締役 青木 芳久

青木 常日頃から大塚会長も話していますが、「あって良かった」と言われる会社を目指してほしいと考えています。そして、そのためには積み上げ型の延長線思考を捨て、目標から逆算して「100年後、200年後も生き残る仕組み」を考え抜く組織であり続ける必要があります。私たち社外取締役も、将来に向けたプラスの思考をサポートする伴走者でありたいと思っています。

三田 青木さんの発言にも関連しますが、大塚というブランドがグローバルで広く認知・信頼されて、大塚の製品が世界中で当たり前に使われている状態を実現することです。私は、すべての従業員が誇りを持って仕事に取り組み、それが社会からの信頼につながるサイクルを支えていきたいと考えています。

瀬口 私は、大塚が他の製薬会社を時価総額で追い抜くことを目標にしてほしいと考えています。サイエンスにフォーカスして、そのリターンを最大化させるという大塚の“勝ち筋”を研ぎ澄ませ、一段高い「真のグローバルステージ」へ駆け上がってほしいですね。

北地 90周年を迎えた際、前会長の大塚明彦氏は「ビッグベンチャーであり続けたい」と話しましたが、売上収益がどれほど大きな企業になってもその精神を忘れないでほしい。お客さまのWell-beingに貢献し続ける会社であること、投資家にはポートフォリオに欠かせない会社であることを期待しています。

松谷 私は高い倫理観(クレド)を持ったトータルヘルスケア企業として、世界で認知される存在になってほしいと思っています。病気だけでなく「人」そのものを見つめ続ける大塚の姿勢を貫けば、必ず道は開けます。井上CEO体制のもとで、きっとその新しい姿を見せてくれると期待しています。

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