CEOメッセージ

グループの力を結集し、一人ひとりの“生き方”に寄り添う価値を届ける 大塚ホールディングス株式会社 代表取締役社長兼CEO 井上 眞

大塚グループの存在意義

人々の健康に貢献する「なくてはならない企業」を目指す

私たち大塚グループは、“Otsuka-people creating new products for better health worldwide”という企業理念のもと、人々の健康、そして健康を取り巻く社会にも目を向け、課題の解決に取り組んできました。熱中症という言葉が一般的ではなかった1990年代前半から行っている水分補給や熱中症対策の啓発活動、患者さんの社会復帰という病気からの回復とその先の生活も見据えた精神疾患治療薬の創製・展開もその一例です。このような一つひとつの取り組みを積み重ねることにより、私たちは「世界の人々の健康に貢献する、なくてはならない企業」といわれる存在になることを目指しています。
「健康」という言葉の意味は、時代とともに変化してきました。現代において「健康である」とは、医学的な意味で身体的に「病気ではない」状態だけを指すのではなく、精神的な充足や生きがい、社会との良好な関係なども含んだWell-beingが満たされている状態を意味します。「健康」は、今や重要な社会課題の一つになっているとも言えます。
大塚グループは、健康をさまざまな角度から捉え、社会課題に包括的に取り組むべく、事業を展開してきました。その軸となるのが、「トータルヘルスケア」という考え方です。
私たちが考えるトータルヘルスケアの本質は、健康な状態の維持から疾病の診断、治療、回復に至るまでの幅広い製品・サービスの提供にとどまりません。健康を願う一人ひとりの“生き方”にまで目を向け、寄り添い、支援していくことにあります。診療室での治療だけでなく、診療室の外に出てからの治療や日常生活までを切れ目なくサポートすることが重要であり、そこに医療と生活の両側面へのアクセスを持つ私たちの特長が活かされるのです。
トータルヘルスケア企業として、身体的・精神的な健康の先にある、“生き方”に寄り添う価値を長く届け続ける。私はそれこそが当社グループの社会的使命であり、存在意義であると考えています。

多様な事業を持つ強みを活かして、社会課題の解決に貢献する

大塚ホールディングス株式会社 代表取締役社長兼CEO 井上 眞

「なくてはならない企業」として社会からの期待に応え続けるために不可欠なものは、「創造性」であると考えています。私たちは、自分たちが貢献できることは何かを真摯に考え、まだ市場が存在しない領域にも挑戦し、新たな価値を提案してきました。熱中症という言葉が社会に定着する前に水分補給の重要性を啓発してきたことに象徴されるように、既存の市場や一過性の流行を追うのではなく、社会課題を起点に事業を構想する姿勢こそが、私たちの独自の価値創出を支えています。
トータルヘルスケア企業である当社グループは、アンメット・ニーズに向けた革新的な医薬品を提供する「医療関連事業」と、科学的根拠をもとに生活者の幅広い健康ニーズに応える「ニュートラシューティカルズ(NC)関連事業」をはじめとする、多様な事業を展開するビジネスモデルで成長を続けてきました。単一の事業では解決できない課題に対して、複数のアプローチを持つことが不可欠と考え、結果として現在の事業構成に至っています。そして、この多様な事業構成を背景に、さまざまな分野における高度な専門知見や、アンメット・ニーズの探索力、ステークホルダーとの強固なネットワークといった、大塚ならではとも言える「強み」を蓄積してきました。
こうした「強み」と、私たちのトータルヘルスケアへの揺るぎない想いを結集した価値創造の一例が、認知症への取り組みです。認知症の本質的な課題は、症状に苦しむご本人のみならず、介護に携わる周りの方々も含めた“社会からの孤立”にあると考え、認知症とともに生きる共生社会の実現を目指して活動を行っています。認知症における行動・心理症状は、ご本人とその周囲との絆に少なからず影響を及ぼします。当社グループの抗精神病薬「レキサルティ」は、アルツハイマー型認知症に伴うアジテーション症状*の治療薬として、日米で初の承認を取得しました。さらに、神経心理検査用医療機器「ミレボ」による視線の動きを利用したアイトラッキングという新技術で認知症の早期発見を支援するほか、人とテクノロジーで社会課題の解決策を提案する機器「FACEDUO」を使用し、介護者が認知症への具体的な対応を学べる体験型VRトレーニングプログラムを開発、提供しています。他にも、医療機関などで認知症ケアに携わる職員の方を対象とした研修会のサポートや、一般の方を対象とした市民講座の開催なども実施しています。
認知症がもたらす「孤立」を社会全体の課題として捉え、複数事業での知見と多様な事業展開を通じて培った行政などとのネットワークを活かし、連携して解決を目指すこの取り組みは、私たちが目指すトータルヘルスケア企業としての活動を象徴する事例です。

  • *アジテーション症状:アルツハイマー型認知症の方の約半数で認められる症状で、国際老年精神医学会において徘徊や同じ動作の反復などの活動亢進、攻撃的発言または攻撃的行動のうち少なくとも1つ以上の症状からなり、日常生活、社会生活、人間関係のいずれかに支障を来した状態と定義されている。「レキサルティ」の日本での効能・効果は、アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動。

中長期の成長戦略

創薬パイプラインを拡充し、パテントクリフを乗り越える

こうした価値を長期にわたり提供し続けるためには、事業を安定的・継続的に成長させる、すなわち経済価値の側面でも持続可能であることが求められます。2年前からスタートした「第4次中期経営計画(2024~2028年度)」は、この観点において非常に重要な意味を持ちます。本中期経営計画期間は、医療関連事業の主力製品のLOE*1による調整局面を乗り越え、持続的な成長軌道を確保していくことが最大の課題です。
2025年度は、後半に主力製品「ジンアーク」のLOEによるマイナス影響があったものの、医療関連事業、NC関連事業をはじめとするすべての事業セグメントで増収となり、売上収益は前年度に続いて過去最高を更新しました。事業利益をはじめすべての利益項目も過去最高を更新し、財務管理指標として重視しているROEは、期首計画を上回る12.6%となりました。
2026年度以降も、前述したLOEや国内での薬価改定の影響が想定されますが、当社グループは以前から、この影響を最小限に抑え、さらなる成長につなげるべく積極的な投資を進めてきました。すでに、IgA腎症治療薬「VOYXACT」の承認・展開などが、具体的な成果として結実し始めています。これにNC関連事業の着実な成長が加わり、2026年度は、事業利益は減益となるものの、売上収益は増収を見込んでいます。「ネクスト8」を含む「グローバル10プラス2*2」のさらなる伸長により、第4次中期経営計画最終年度の2028年度には過去最高の業績を目指します。

  • *1LOE(Loss of Exclusivity):独占販売期間の満了
  • *2グローバル10プラス2:医療関連事業で成長ドライバーとして設定している製品群。第4次中期経営計画期間に成長を牽引する2製品「コア2」に、第5次中期経営計画期間以降に売上成長が期待できる8製品「ネクスト8」を合わせて「グローバル10」とし、戦略的導出品の2製品「プラス2」を加えて「グローバル10プラス2」としている。

長期視点を持って、持続的な成長を目指す

短期的にはLOEの影響を最小限に抑え収益を確保する一方で、5~10年の長期スパンで事業と組織の進化を追求することも重要です。
当社グループは、2035年度に売上収益3.5兆円を目指す長期目標を掲げました。短期的な収益とのバランスを見ながら、目標達成に向け積極的な成長投資を行っていきます。具体的には、「自社研究による内部サイエンス」と「戦略的提携やM&Aによる外部サイエンス」を組み合わせることで、社会課題の解決に貢献する既存事業をより深化させます。同時に、未来の成長を支える「次世代コア領域」を確立し、事業ポートフォリオのさらなる拡大を図っていきます。

医療関連事業の中長期成長戦略:事業ポートフォリオ強化

医療関連事業では、精神・神経、がん領域に加え、既存事業とシナジーが期待される領域として自己免疫、希少疾患領域にも注力し、製品価値最大化とポートフォリオ強化を進めていきます。
当社グループが強みとしてきた精神・神経領域は、治療の難易度が高く、開発成功率も低いことから、いまだ治療法が確立されていない疾患が多く残されています。これまで培った事業ノウハウを活かし、外部から獲得したサイエンスを7~8年をめどに事業化に結びつけるべく、研究開発を加速していきます。その一例として、近年では、うつ病やPTSDの治療にパラダイムシフトを起こせる画期的な開発品を獲得しました。同製品は、根本的治療が困難とされるこれらの疾患に対し、新たな作用機序によって、より少ない投薬回数で長期間の効果持続が期待できます。
また、次世代コア領域と位置づける自己免疫領域では、ビステラ社、ジュナナ社のM&Aで獲得した高度な外部サイエンスを活用し、「低分子化合物」と「抗体医薬」の2つのモダリティで研究開発を進めています。ビステラ社による新薬「VOYXACT」は、IgA腎症治療薬として2025年にFDA(米国食品医薬品局)の承認を取得し、第4次中期経営計画期間中にブロックバスターとなる見込みです。同製品は米国における当社グループ初の抗体医薬品であり、ファースト・イン・クラスの新しい治療選択肢として、多くの患者さんに届けられるよう注力していきます。
これらに加えて、健康に関する社会課題への貢献という視点から、治療法のない、あるいは不十分な疾患が多く存在する希少疾患の領域にも注力し続けます。この領域ではADPKD治療薬「ジンアーク」で培った事業ノウハウが強みになります。これまで、外部から複数の革新的サイエンスを獲得しており、獲得後5年をめどに事業化を目指すスピード感で、開発を加速させていきます。

2035年に連結売上収益3.5兆円を目指す事業成長イメージ図

NC関連事業の中長期成長戦略:独自価値創出のさらなる深化

大塚グループでは第4次中期経営計画において、「地球環境」「女性の健康」「少子高齢社会」の3つを注力する主要な社会課題と位置づけています。NC関連事業では、これらの各課題の解決に資する製品・サービスの開発・拡大を進めており、引き続き独自の価値創出を深化させていく方針です。
中でも、NC関連事業の成長ドライバーである「ポカリスエット」のグローバル展開には、さらに注力します。地球規模で深刻化する“熱中症”という社会課題に取り組むイオン飲料「ポカリスエット」は、アジアを中心に世界20カ国・地域以上で販売され、ブランドを着実に確立しています。2025年にはインドやナイジェリアでも販売を開始し、生産面でも2025年にベトナム、2026年に中国(天津)で新工場を設立するなど、中長期視点で成長基盤の整備を進めています。
さらに北米市場では、2025年から“Caring Hydration(ケアリング・ハイドレーション)”をコンセプトとする啓発活動を開始しました。これは、熱中症という世界的な社会課題に対し、自分だけではなく、周りの人も気遣いながら、ともに解決を目指すという考え方を示しています。医療や健康分野のKOL(キー・オピニオン・リーダー)、行政機関と連携して、科学的な根拠に基づいて水・電解質補給の重要性を社会へ広く訴求するこの活動は、まさに大塚によるトータルヘルスケアの在り方を示すものです。
こうした既存事業の深耕に加え、新分野の創出にも挑戦しています。2026年3月に発売したセルフコンディショニングフード「/zeroz」(ゼロズ)もその一つです。統合生命科学の視点で開発した「/zeroz」は、植物由来の成分(ケンフェロール)により「酸素」を活かすことで日々の健康をサポートする製品です。不足した水分や栄養成分を「補う」という従来の視点とは異なり、「Active Inner Resource=身体本来の力を呼び覚ます」という今までにないコンセプトを持つため、市場や生活者の理解を得るには時間がかかるかもしれません。しかし、新たな健康ソリューションを、じっくり時間をかけて伝えていくことも、トータルヘルスケア企業として当社グループが果たすべき大切な使命だと考えています。

「/zeroz」のコンセプト

生命活動に必須な「酸素・水・栄養」に対応する製品(/zeroz、ポカリスエット、カロリーメイト)を示す概念図

持続的な価値創造に向けて

水平協業・共創の進化でイノベーションを加速

大塚ホールディングス株式会社 代表取締役社長兼CEO 井上 眞

研究開発活動における当社グループの大きな特徴は、「水平協業」にあります。多様な事業を営む各社の独立性・専門性を重んじ、それぞれが独自のイノベーションで強みを深化させると同時に、培った強みを互いに持ち寄り、新たなイノベーションを共創していく、という考え方です。
その一環として、大塚製薬内に、研究関連グループ会社を含めた創薬プロジェクト全体における優先順位や、各社間の協業促進を行う組織を設置しました。これによって各社の技術連携・情報共有をより強化し、戦略的に創薬研究を進めていきます。さらに、大鵬薬品がM&Aによって獲得したアラリス社の抗体薬物複合体(ADC)の創薬技術をグループ会社の創薬研究に活かす試みがスタートするなど、組織の垣根を越えた有機的な連携が進んでいます。当社グループでは、2030年以降の上市を見据えた複数のプログラムが進行しており、2035年までに10品目以上の新薬創出を目指しています。
上記に加えて、NCおよび医療の両事業間での協業・共創も、これまで以上に促進していく方針です。医療関連事業の創薬研究では、病気の本質を理解するために、臓器、細胞、分子へと分解し、作用機序を明らかにするアプローチを取る一方で、NC関連事業では、統合生命科学の視点を取り入れ、生命現象を支える臓器間・細胞間のネットワークそのものの理解を深めることにも取り組んでいます。「/zeroz」も、こうした統合生命科学の視点から生まれたものです。「ポカリスエット」や「カロリーメイト」のように、医療関連事業の知見をNC関連事業に活かすだけではなく、統合生命科学分野におけるNC関連事業の知見・ノウハウを医療関連事業の創薬研究にも活かすなど、両事業の強みを融合したイノベーションを推進していきます。

水平協業から生み出される創薬イノベーション

水平協業から生み出される創薬イノベーション 簡潔版(SNS・Web向け)戦略的提携や各種創薬技術(Jnana, Visterra, Astex, Araris, 大鵬薬品など)を活用し、2040年に向けて上市プログラムの加速を目指すスキーム図

組織の壁を越えて常に「変革」を求める人財を育てる

CEO就任から1年を経てあらためて感じるのは、大塚グループの強さの源泉は「人」にある、ということです。不確実性が高まる経営環境の中、各現場で誠実に役割を果たす従業員一人ひとりの力が、グループの着実な前進を支えています。同時に、イノベーションを生み出す原動力もまた「人」であり、「変革」を志向し続ける人財が必要不可欠です。
こうした変革人財の育成には、社内外の教育・研修に加え、多様な分野や職務の経験、他者と連携する機会も非常に重要だと考えています。これはグループ内の複数の部署、事業、会社を経験してきた私自身の実感でもあります。
当社グループは企業文化として、前述した「創造性」に加え、「流汗悟道」「実証」を掲げています。さまざまな現場で汗をかいて本質をつかみ、学び、試行錯誤を重ねながら実証していく。その積み重ねこそが、人の成長と、可能性の広がりにつながると信じています。多様な事業領域や国内外に広がるグループネットワークを活かし、組織を超えたコミュニケーションの促進、流動性も踏まえた最適配置などを通じて成長の機会を提供することで、グループ全体の持続的成長につなげていきます。

社会課題の解決を通して企業価値を高めていく

健康を取り巻く社会課題は、近年さらに複雑化・高度化しています。その中で、私たちはトータルヘルスケア企業として、多様な事業を持つ強みを活かし、健康の先にある、その人らしい“生き方”に寄り添う価値を提供することで、Well-beingの実現に向けて取り組んでいます。
不確実性の高い時代にあっても、私たちは短期的な成果と中長期の成長を両立し、安定的かつ継続的な経済価値の創出に努めるとともに、生み出した価値を、事業や技術基盤の強化、そして人財力やブランド価値の向上につなげていきます。同時に、適切な利益還元と資本効率を強く意識した経営を推進することで、企業価値を中長期で向上させ、株主・投資家の皆さまのご期待にも応えていきたいと考えています。
「世界の人々の健康に貢献する、なくてはならない企業」として認識され、ステークホルダーの皆さまとともに成長していけるよう、これからも挑戦と変革を積み重ね、健康で持続可能な社会の実現に貢献していきます。

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